住む人が主役の家造りを 

 住宅関連の建築雑誌を読んでいると、違和感を覚えることがあります。その原因を考え、わかったのは、「掲載された写真から、住んでいる雰囲気が伝わりづらい」ということでした。
 モデルルームとは違い、人が使っている住宅を雑誌などに掲載する場合、さすがにきれいに片付けて撮影することは、自分の家を考えれば容易に想像できます。
 しかし、多少の雑然さや家具と建物の統一性のなさも、住む人のこれまでの歴史を物語る一部として、実際の生活を想像できますし、置いている物の大きさからは空間のスケールを把握することができます。それらの要素があるからこそ、家のパワー(息づかい)をリアルに感じることができると思うのです。
 わたしは「人が家に住まうことは、どういうことだろう」と考えながら、日々住宅などの設計に携わっています。住宅が完成するまでは、施主とともに生活の夢を思い描き、それを図面にして、施主の了解を得ながら家造りを進めていきます。
 しかし、建物が出来上がって家が完成するわけではなく、住み始めてからが、本当の意味で家がや生活づくりがスタートするのではないでしょうか。住む人が主役となり、生き生きと暮らしていける家を造りつづけたいと、日々奮闘しているところです。
 また、人が住まうことは、自分たちだけでなく、同時に周りの人たちと共に生きることでもあります。住宅を一軒建てるだけでも、その周りやまち全体にも影響を及ぼします。建てるとき、あらかじめ周りのまち並みにも配慮して設計することで、そのまちも好きになってくるでしょうし、ますます自分の住宅に対しても愛着がわくと思います。まち並みに配慮した住宅を見た住民が例え一人だったとしても、「まちのために自分の家でも何かやろう」と考えて実行していただけるなら、まちはもっとすてきになっていくのではないでしょうか。
 建築の設計者として、そんな家づくり・まちづくりを目指していきたいと考えています。

新垣 朝憲

高齢者の居住形態

高齢者の暮らしの場は、その85%はご自分の持ち家で暮らされています。体力がおちれば、特別養護老人ホームや老人保健施設、療養型病床へ入ることになります。
那覇市安謝団地の中にある、自立した生活を営める方々が暮らすシルバーハウジングなども全国では広がっています。

 阪神大震災のあと、取り残されたご老人たちが仮設住宅の中で孤独死をするということが社会問題にもなりました。神戸を中心として、他人同士が共同で暮らすコレクティブハウジングが広がってきています。ほとんどが公営の高齢者住宅として設計され、緊急通報装置を備え、裸火を使わないレンジがついています。段差はなく、引き戸の洋便器がついています。
孤独感を感じずに共同で暮らすという住民同士の暮らし方が、ひとつのテーマでしたが、震災の痛みが薄れる今頃になると、十分な住民同士のコミュニケーションをとるのが難しくなってきている現実もあるようです。

 介護保険がスタートして、高齢者居住のひとつの形態としてグループホームという住まいが提案されました。中程度の痴呆のあるご老人たちが、5〜9人程度の小規模で、個室でともに暮らすという居住形態です。介護保険事業適用施設ということもあり、病院や特養に併設されることが多いようです。
沖縄県内では18箇所あります。共同の居間や食堂、浴室をもち小規模ながら家庭的な雰囲気を作ろうとしています。24時間ケアできる体制もとっており、家族にとっては安心できる施設です。

北欧で提案されたグループホームは、街中に溶け込んだ形で運用される居住形態が当たり前ですが、日本のものは施設併置の形を取るため、人里はなれた設置が多いという残念な現実があります。

  宅老所とよばれる施設があります。写真は、宅老所のデイサービスの様子です。介護保険の適用対象施設ではありませんので、大半はボランティアで支えられている状況です。今のところ高齢者の居住施設としては認められていないため、周辺のご老人のデイサービス事業を引き受けて経営をしているのが現状です。県内には18箇所設置されています。
中には新築の建物もありますが、街の中にあるということを原則として取り組んでいるため、住宅を改造したりしながらの運営のため、施設的にはバリアーの多い不十分な状態といえます。地域の中にあるため、地域のご老人が利用しやすく、喜ばれています。宮城県や長野県のように、県として施設改造の補助金を出しているところもあります。




金城 治奈(2004年6月16日 掲載)



プレイルームの提案

住宅設計の上で、常々心得ていることがあります。それは、家族のつながりが保てる住まいをつくるということです。そこで配慮するのが、居室計画にパブリックとプライベートの二つの要素を含む『中間領域』をつくることです。わたしはこの空間をプレイルーム(多目的室)と呼んでいます。用途を限定せず、柔軟に使用できる空間です。

 プライベートな空間として、新築の際、施主から要望されるのが子供室です。確かに子供たちのプライバシーも尊重すべきですが、新築と同時にいきなり子供たちに広い部屋を与えるよりも、子供室は必要最小限の広さに抑え、プレイルームをつくることを提案しています。

例えば、階段下や一階と二階の吹き抜けなどを利用してプレイルームを造る。子供室に勉強机や書棚を置かない代わりに、プレイルームに書庫スペースやカウンターを取り付け、家族誰もが多目的にそこで過ごせるようなしつらいに仕上るのです。そして、プレイルームをつくるときに配慮するのが、子供たちにとって居心地の良い空間づくりを心掛けるということです。
天井はあえて低く、または子供室では味わえないような高さにしたり、吹き抜け越しに階下をのぞきこめるデザインを手すりに施したりと、隠れ家的な遊びの要素を取り込みます。

 写真のプレイルームの例では、L字型のカウンターでお父さんはパソコンを楽しみ、その横でお母さんが家計簿をつけ、さらに子供たちは本を読むという家族が共に過ごしながら、思い思いにくつろぐ空間を実現できました。
そこはリビングに来客があっても、子供も大人も気兼ねなく過ごせる場所であり、家の中に家族が集う場所の選択肢が増えたと同時に、より家族のプライベート性の高い場所と成り得たのです。また、このような中間領域を密室ではない場所につくることで、家族の気配を感じ、希薄になりがちな家族の生活を取り戻すことができると思います。

 公私を分けた空間構成は大切ですが、そこに核となる家族の絆が感じられなければ無意味ではないかと思います。家族も訪れる人も過ごせるプレイルームを家づくりの要素に盛り込んだ上で、個々のライフスタイルにあった設計を提案していきたいと思います。




伊良波 朝義 (03年11月21〜27日 掲載)